伝統工芸品「京鹿の子絞り」の魅力に触れる
京鹿の子絞りとは?
絞り染めは、日本では千数百年前から行われてきており、衣装の紋様表現として用いられてきました。生地をつまみ、つまんだ箇所を糸で括るといった工程を繰り返し行う繊細な技法で生み出される絞りは、括りの模様がこじかの斑点に似ていることから、「鹿の子絞」と言われています。古来より伝わる染色法で、防染処理に浸染模様を表現する技法を絞り染めと言われています。京都で生み出される鹿の子絞りは伝統的工芸品「京鹿の子絞」と呼ばれます。
京鹿の子絞りの歴史
最古の正史「日本書紀」にも絞り染めに関する記述が残っているなど、古くから絞り染めがあることをうかがい知ることができます。室町・桃山時代から江戸時代にかけて、一世を風靡した「辻が花染め」は、絞り染めを駆使した代表的な作品になっています。
さらに江戸時代には「かのこ」「鹿の子絞」「京鹿の子」として広がり、総絞り、刺繍入り絞り、友禅を加工した絞友禅などが生産され、17世紀末の元禄時代には全盛期を迎えました。
京鹿の子の特徴:絞り染め技法の最高級品
京鹿の子絞りの技術は、小さな粒模様が帯状や総模様として布に施されることで、優雅で奥深い風合いを持ちます。また、一着が完成するまでに膨大な手間と時間を要するため、まさに「最高級」といえる工芸品となっています。
京鹿の子絞りは、その多彩な技法と表現力が特徴ですが、中でも「総鹿の子絞り」と「疋田絞り」は基本的な技法として知られています。総鹿の子絞りは布全体をびっしりと絞ることで、まるで無数の子鹿の斑点のような粒模様が浮かび上がり、豪華で華やかな仕上がりになります。一方の疋田絞りは、より小さな範囲で模様を作り出す技法で、絞り目が繊細でありながらも整然とした美しさを持っています。
これらの技法は、布を糸で一つひとつ括る作業によって異なる模様を作り出すため、職人の熟練した手技が求められる技術です。その手間を惜しまずに仕上げることで、京鹿の子絞りは絞り染めの最高峰として評価されています。
京鹿の子絞りの製造工程とは
①下張り
生地を「張り木」と呼ばれるものに張り渡し、しんし針で生地幅を揃え、糊を刷毛で塗っていきます。生地に歪みや不揃いがあると下絵がつけにくく、加工しにくいためこの工程を行います。
②下絵型彫
デザインされた生地の模様(下絵)は型紙にうつします。デザインに基づいて、ポンチや小刀を用いて、型紙に小さい円や線を彫り、型をあけていきます。
③下絵刷込
型彫された型紙を生地に置き、青花液を刷毛につけて生地に刷り込みます。この工程を絵付けといいます。
下絵は、型紙に施された円の穴や線でどのような技法が必要かがわかる仕組みになっています。(型紙ではなく、手描きで行う場合もあります)
④絞括
京鹿の子絞りの代表として挙げられる絞り「本疋田絞」があり、これが一般的に「鹿の子絞り」と言われています。指先と絹糸だけを使って括る方法で、絞り目を一粒一粒絹糸で3回〜7回括り、絞り模様の集合体が一反の模様を構成します。小さな模様を生み出すこの技術は、絞りの中で特に時間と高度な技術力を要します。総絞りの振袖で約18万粒括る場合もあります。
他にも「針疋田絞」という技法もあり、これは絞り台を使用し、括る技法です。絞り台の針先に絞り目をひっかけ、絹糸で2〜5回巻きしめます。別名機械絞りとも呼ばれます。
絞り技法は、一目絞・縫い締め絞り・傘巻き絞りなど、約50種類以上にのぼり、それぞれの技術ごとに専門の技術職人が、絞括加工に携わります。
⑤漂白
絞り加工を終えた生地は下絵工程で刷り込んだ青花液や絞り加工中に付着した汚れを落とすため、漂白します。
⑥染め分け
染める色の数だけ「染め分け」を行います。防染方法には、大きく分けて「桶絞」と「帽子絞り」があります。
桶絞りは、専用の木桶の内側に染めない部分(防染部分)を入れ、木桶を密封します。染色する部分は桶の縁に出して固定し、そのまま染液の中に浸ける技法です。
一方、帽子絞りは染色部分を竹の皮やビニールで覆い、糸を強く巻き付けて染色する技法です。
⑦染色
染め分け工程を終えた生地は、指定された色の染液の中に浸された後、水洗いを行い、乾燥させます。
絞り染めは、括りという特殊な防染加工されたものを染色するため、生地を直接染液の中に浸けて染める「浸染」方法となります。この方法は、1回の染色で1色しか染められないため、多色を染める場合は色数分だけ染色を繰り返し行います。
⑧湯のし
染色後、乾燥させた生地は括りで縛られた絹糸を解きます。一粒ずつ丁寧に、たっぷりの愛情を注いで絞られた糸を慎重に解いていきます。
絞りで縮んだ生地は、窯で沸かしたお湯の蒸気を当て、手作業によって不要なしわを取り除き、幅出しを行います。この工程を「湯のし」と呼びます。
1回の湯のしでは生地が良い状態にならないため、2〜3回繰り返します。この工程を行うことにより、染色の鮮やかさを引き立て、絞りの風合いを生かした仕上がりになります。
utataneと京鹿の子絞り
utataneオープン当初からお世話になっている伝統工芸士・清江さん。
図案から配色、下絵づくり、絞り方、染め分けなど、分業されることの多い京鹿の子絞りの全行程を把握している希少な職人です。
毎年とっても気さくに京鹿の子絞りについて詳しく教えてくださり、スタッフも勉強になることばかりです。
そんな希少な職人さんは年々高齢化・継承者不足によって、現象傾向にあります。絞り染め技法の最高峰とされる「京鹿の子絞り」も入手困難なお品になってきています。
そんな伝統工芸品、職人さんの高度な技術の継承のお手伝いができればと、utataneはこれからも京鹿の子絞りの商品を取り扱ってまいります。
2025年には伝統工芸士・清江さんの絞り技術が織りなす希少な帯の展開をはじめました。
浴衣や夏着物にぴったりな兵児帯もチェックしてみてくださいね。